CHAPTER 01
まだ社会が、
求めていなかった。
「どうしたら買ってもらえるのかなあ」2017年、HIKICHIはロボット・IoT事業推進部に身を置き、プログラミング・STEM教育用のロボットの販売をしていた。触って試してもらうタッチ&トライイベントに出品して、実際に体験してもらった。「おもしろい!」「たのしい!」子どもたちや保護者から、ポジティブな反響をいただく。アンケートの結果も良い。ただ、購入までにはなかなか至らない。製品には自信があった。例えば、STEM教育用のロボットmBot(エムボット)は僅か30分程度で組み立てが可能。タブレットやスマホでプログラミングすると組み立てたマシンが動く、まさに子どもたちの想像力を膨らませることのできるロボット。だが、プログラミング教育といっても保護者にはピンとこなかった。
ロボット・IoT事業推進部には前身があった。2015年、「新規事業を立ち上げよ」というミッションの下、ひたすら新規事業のアイデアをだしていた。その中の1つに、ロボットの流通があった。ロボットにも会話の得意なロボット、英語やプログラミング用のロボット、清掃用のロボットなど種類はたくさんある。その中で消費者向けロボットの取り扱いを始めてみようという話になった。SB C&Sは流通が得意な会社。ロボットを仕入れて売る、ロボット流通が立ち上がった。
ロボット流通事業にいざ参入。ところが、ロボットメーカーの担当者の名前も知らない。HIKICHIは、業界の集まりに飛び入り参加をしてネットワークを広げようと考えた。そこではじめてSTEM教育の話を聞くことになる。
HIKICHIは、コミュニケーションロボットの普及を目指していた。それが社会をより良くするだろうとの想いがあったためだ。しかしユーザーの求める価値といま現在提供できるものにはギャップがある。長いスパンだが、多くの子どもたちにロボットや技術に興味を持ってもらい、その発展の役割を担ってもらうことを期待しよう。STEM教育ロボットを販売する一方で、STEM教育そのものについて考えるようになっていた。
そのころ、NISHIMURAは情報システム部門にいた。そろそろ10年。キャリアの変わり目だと感じていた。MARIは、家電量販店で自社の製品、ソフトウェアなどの売り場づくりをしていた。RYOHEIは、大学4年生。このときはまだ、同じプロジェクトを供にすることになるとは、想像もしていなかった。2016年。『STELABO』の誕生まで、あと3年の月日が必要だった。
CHAPTER 02
STELABOを、
未来のより良い社会に
つなげ。
2016年。建築や冒険ができるゲーム『マインクラフト』の教育版が発売。日本でもSTEM教育の息吹が芽生える。そのころ、情報システム部門所属のNISHIMURAは、国内の技術者不足について身を持って体感していた。海外諸国に比べて技術者への支援が足りないんじゃないか。教育が不足しているんじゃないか。そんなあるとき、ベトナムに出張した知人から現地教育の話を聞く。STEM教育という教育手法があること。プログラミング教育が進んでいること。先進国であるはずの日本が遅れをとっている。調べてみると、SB C&SでもSTEM教育関連の部署があることを知る。NISHIMURAは迷わず、手を挙げた。はたしてNISHIMURAはHIKICHIのチームに加わることになる。
モノではなく、コトを提供する。HIKICHIとNISHIMURAらは、SB C&S で仕入れた最先端のロボットを用いて、STEM教育を提供していこうと決めた。そして事業開始に向けて動き始める。事業のコンセプトやビジネスモデルの検討、事業パートナーとの連携交渉、市場調査などを行い、プレセールスで顧客の反応を見ながら、何度もディスカッションを重ね行動した。
こうして『STELABO』は生まれた。
『STELABO』の教育理念は『STEM教育を通して夢を叶える人を育む』。これから子どもに必要とされる4つの技能「理数とICTの基礎力」「自ら深く考える力」「協力して学び合う力」「創造し表現する力」について、レッスンを通して身に付けられる教育。
レッスンでは、はじめにベースとなる原理や仕組みなどの知識を学ぶ。そしてブロックやロボット、タブレットを用いて、時にはクラスメイトと一緒に試行錯誤しながら課題制作に挑戦し、最後に自身の成果を発表するスタイル。この「インプットする」「ものづくりを通じて理解を深める」「アウトプットする」というサイクルを繰り返し行うことで、これからの社会で必要とされる4つの能力を育むことを目指している。生徒に何かを与えるのではなく、じぶんで考えてもらう。じぶんで気付いてもらう。もちろん、うまくいかないこともある。むしろ、その試行錯誤に意味がある。失敗してもいい。あきらめないで、挑戦し続ける力を養う。一校目は、汐留に開校。開校日は、2019年6月12日と決まった。
開校に向けて、MARIとRYOHEIが加わった。MARIはマーケティングを担当。MARIはマーケティングの経験がなかった。まさにゼロからの出発。知識を得るためにさまざまなアクションを行ってきた。上司からイロハを教えてもらうことはもちろん、本やセミナーなどから学び、スキルアップに挑戦してきた。いよいよ汐留校オープンを迎える。集客するためにウェブサイトの立ち上げやチラシ作成、広告などやることが山ほどある。汐留校のある港区は子どもが少ない。どうやって生徒を集客するか。数多くリーチできる方法は何か。時間がない中で関連部署に協力を仰ぎながら検討を重ねる。体験会から入会してもらうために、小学校のまわりでチラシを配る。受け取ってもらえるようにチラシのデザインやノベルティを何度も試行錯誤する。すると「こういう教育を探していた!」と言ってもらえるようになり、たくさんの親子連れにSTELABOの体験会へ参加してもらえた。その後も、広告のクリエイティブを変えることで多くの反応を得られたりするなど、手応えを感じていった。
RYOHEIは教材の作成を担当。教材に使う図形などのために、イラストレーターやフォトショップというソフトを使いこなそうと必死で取り組んだ。STELABOへ来る前は営業職。元々、営業でSTEM教材を販売していた上、学生時代はプログラムを組んでいたので、ある程度理解はしていたが、まさか仕事でしかも教える立場でプログラミングと向き合うことになるとは思ってもいなかった。開校に向けて、誤字脱字などの基本的なことはもちろん、子どもたちがこの言い回しで理解できるのか、より学びにつながる教材にするためにイラストを加えた方が良いのではないかなどと何度も推敲し、子どもの笑顔を思い浮かべながら慣れない作業に向かっていった。体験会で子どもたちが夢中になって取り組んでいる姿を見たとき、1つの達成感を感じるとともに、さらに良い物をという意欲が湧き出していった。
ほかにも、講師や営業、バックオフィスなどいろいろな役割のメンバーが心血を注いでこの教育に取り組んでいる。『STELABO』は無事開校を迎え、ほぼ定員でスタートを切ることができた。
開校から1年。高い顧客満足度を得ている。保護者から、うれしい報告をいただく。遊園地で遊具や乗り物の動きをみて、「STELABOで習ったんだよ!」などという話が出るという。生徒たちが普段の生活で学びを活かそうとしている。教育が活きていると実感する。
社会の変化を予想するのは難しい。技術革新も、感染症も、突然やってくる。『STELABO』メンバーの願いは、ここで学んだ生徒たちが、将来、変化の流れをつかんで上手く適応し、より良い未来に貢献してくれること。どんな未来になっても、自信を持って生きていけること。
そうなると幸せだよねと、きょうも教室から願っている。